
(2019年5月取材)
在宅に限らず高齢者介護・介助の現場で増加する認知症。千葉県内の住宅街エリアにおいて在宅医療・介護のサポートを行っているメディスンショップ蘇我薬局では、認知症の患者さんへの対応も多いといいます。薬剤師にできる認知症ケアについて、現場で活躍する雑賀先生にお話を伺いました。
[はじめに]薬剤師が認知症の人に関わる意味
在宅で介護されている介護者の方々が負担に感じる介護・介助行為についての調査1)では、「問題行動への対処」36%、「排泄の介助」25%、「入浴の介助」18%、「服薬の介助」12%、「食事の介助」7%、「衣類着脱の介助」2%と報告されています。この結果からもわかるように、私たち薬剤師が認知症の人と関わるということは、同時に介護者の人とも関わることになります。患者様だけではなく介護者も同時にケアすることが求められます。
1)介護者が感じる服薬介助負担のアンケート調査
鈴木弘道et al 社会薬学(Jpn.J.Soc.Pharm.) vol.32 No.2 2013

服薬をシンプルにする処方提案
認知症になると服薬忘れが目立ってきます。介護者が服薬介助している場合は、毎日の服薬で疲労を抱えていることも少なくありません。
医師の処方内容について、医学的・薬学的な面から処方提案できる職種は、薬剤師を除いて他にはいません。服薬時点をまとめたり、剤形変更やポリファーマシー是正の提案など、服薬アドヒアランスを向上するための提案をすることで、認知症の人だけでなく、介護者の心身の健康を同時に支えることができます。

認知症ケアの基本的な考え方
認知症ケアの基本に、「パーソン・センタード・ケア」という考え方があります。これはイギリスの心理学者が提唱した考え方で、「認知症の人を一人の人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」というものです。
認知症の人を介護する際に「何もわからない人」「特異な行動をとる人」「すぐに忘れてしまう人」といった考え方で接するのではなく、その人の人生観や生きてきた背景を考え、相手の立場を想いながら接しましょう、という考えです。
薬剤師が服薬指導する時にも有効で、いくつかポイントを押さえておけば誰にでも簡単にコミュニケーションをとることができます。
コミュニケーションのポイント
・否定しない
・ゆっくり話す
・同時に二つのことをしない、言わない
・曖昧な表現を避け、短い言葉ではっきり話す
・相手の言葉が出てくるまで待つ
・相手を敬った言葉遣いをする
・上方や後方から話しかけない(相手の視線の先に自分が入ってから話しかける)
・不穏、興奮時には上手に話題を変えていく など