一番難しいと感じていたのは患者とのコミュニケーション
患者さんはどの薬局に行っても同じ薬が処方されますが、対応した薬剤師によってどう変わるのか、説得力のある説明の仕方は…とずっと考えていました。私は30歳でも年齢より若く見られがちだったので「こんな若いやつに言われても」と患者さんが思われているのではないかと と自分自身の自信のなさから、悩むことが多くありました。
メラビアンの法則に基づくと、見た目や声色は実際に言っている言葉自体以上に人に対する影響力があることを知り、実際に低音で話してみたり、風貌を変えてみるなど色々と試してみたものの、これと言って患者さんとの関係性を劇的に変えるだけの効果を得られませんでした。
また別のときには、当時、6年制になる薬学部の教育では、OSCEが導入され「傾聴と共感」が大事だと言われるようになっていたので、テキストや研修で学び、試してみたのですが、それもあまり上手くいきませんでした。
患者が自ら考え、療養行動をするよう促すことが
大事だと気づく
それから数年経って、岡田 浩先生(当時:京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)らが実施した「COMPASS研究」の中で、薬局の薬剤師が投薬口で3分間という短い時間、動機付け介入することによって糖尿病患者のHbA1cの値が下がることが実証され、衝撃を受けました。それを受け、すぐに同プロジェクトが開催するエンパワーメントという概念に基づく服薬支援の研修「3☆ファーマシスト研修」を受講しました。
この研修で学んだ経験や気づきが、その後の服薬支援に大きく影響しています。私たち医療従事者は善意から、ついつい患者さんがやろうとする行動について、こちら側が問題を解決してあげようと提案やアドバイスをしがちです。しかし、人はそもそも他人から言われたことや指導されたことはやりたくないものです。どんなに正しいアドバイスや提案も患者さんからのニーズに沿っていなくては受け入れられないということです。患者さん自身に考えてもらえるような質問をし、自らが進んで療養行動を起こしていくための働きかけを行うことが大切なのだと学びました。
その頃から私は、薬局で相手に対して謙遜し過ぎず、指導になり過ぎず、フラットな関係で接するよう意識し、それを続けたところ、患者さんから感謝の声を聞くことが増え、薬局で働くことが楽しくなってきました。 言葉や知識が変わったというより、患者さんとの接し方が変わったということが自分にとって大きな変革だったと言えるのかもしれません。