全国的に大手チェーン薬局の台頭が目覚ましく、薬局薬剤師をめぐる環境は大きく変化しています。このような状況のなか、静岡県薬剤師会では薬剤師の在宅訪問の強化を進めています。この背景について、静岡県薬剤師会会長の石川幸伸氏は、「薬局薬剤師の地位向上を目指したい」と話します。薬剤師の在宅訪問の強化を進める理由や、地域に根差した薬局像について石川会長にお話を伺いました。
父親の薬局を事業継承して感じた 薬局運営の原点
―静岡県内の薬局、薬剤師を取り巻く環境について教えてください。
静岡の県域は東西に長いため、静岡県薬剤師会でも東部、中部、西部と3つの地区に分かれています。研修会1つ開催するにしても会員に集まってもらうのが大変で、伊豆方面の方などは研修会場まで出てくるとなると一日仕事になってしまいます。また同じ内容の研修を3地区で行って対応することもあります。ウェブ研修の環境も整いつつあり、講義型の研修には参加しやすくなってきていますが、参加型・体験型の研修も薬剤師にとっては重要ですので、人数を絞るなど県の基準を守り感染症対策を取りながら必要な研修はしっかりと続けています。
県内では、大手チェーン薬局の参入も多々ありますが、地方部には昔ながらの薬局が残っています。医薬分業が開始されてかなりの年数が経ちましたので、薬局を立ち上げた初期の頃の方々は引退の時期に入り、代替わりを迎えています。そこをスムーズに代替わりしてくれればよいですが、例えば、大手とM&Aで売却したりして薬剤師会の会員を辞めてしまうということもありますので、会員確保という点でも事業継承の問題については注視していかなければならないと思っています。
―石川会長ご自身も、お父様が経営していた薬局を継ぎ、当時の経験が原点となっているそうですね。
もともと私は病院に勤務していたのですが、父親が病気になったことを機に26歳のときに実家の薬局を引き継ぐことになりました。院内調剤で処方箋通りに薬を渡していればいいということに疑問を持ち始めたタイミングで初めて薬局を手伝うことになり、患者さんからの相談で薬を自分で選択し、次回に反応が返ってくるというOTCの世界に非常に魅力とやりがいを感じたというのが原点となっています。
OTCの場合は価格の安い方が強いという構造になりやすいので、大手チェーン店などに押されて昔ながらの薬局は少なくなってきてしまっていますが、私は地域住民に対して健康提案ができる薬局、患者さんが相談できる薬局というものを大事にしたいと思っています。誰もが病院に行く前にちょっと相談できる、門戸の広い薬局を目指しています。
―薬剤師会の取り組みを見ると、静岡新聞へのコラム掲載や「お薬出前講座」の開催など、積極的に地域へ出ている印象です。
新聞コラム「ちょっと得するクスリの知識」については平成25年度から続けているもので、担当の薬剤師が持ち回りで、月に1回自由に発信してもらっています。
出前講座に関しては、これまでは介護施設などの介護をする側の方に向けたものだけだったのですが、今年から保健所で担当されていた一般の方向けの講座についても薬剤師会で一手に引き受けることになりました。出前講座は薬局の窓口のように背後に薬が並んでいるわけではないので、「薬を買わないといけないのでは……」という余計な心配もかけないですし、薬剤師としても伸び伸びと楽しく活動できる良さがありますね。
また静岡県からの委託で開設している『高齢者くすりの相談室』も平成7年から続けており、寄せられた質問の中から広く役立つと思われるものをまとめて年に1回Q&Aの小冊子を発行もしています。
*高齢者くすりの相談室(小冊子)紹介
小冊子は静岡県薬剤師会のウェブサイトからもPDFでダウンロードができます。ぜひご活用ください。
https://www.shizuyaku.or.jp/soudan/