大分県薬剤師会では、薬剤師会検査センターで分析した温泉成分をまとめた本「おおいたおんせんの顔」や「おんせん県おおいたの飲泉スポット30」を発刊しています。会長の安東哲也さんは、「地域に根差すためには、薬剤師業務の枠を超えて地元と連携することが重要」と語ります。さまざまな独自の取り組みを続ける大分県薬剤師会会長の安東哲也さんに、地元へ密着した薬剤師会の在り方についてお話を伺いました。
人口流出とともに引きおこる薬剤師不足を食い止めたい
―大分県内の薬局、薬剤師を取り巻く環境について教えてください。
大分県は、九州の中でも陸の孤島と言われてしまうほど交通の便が良くありません。お隣の福岡県と比較して就職先も多くなく、若年層の人口流出が課題となっています。福岡は住みやすく、大分県からも電車で2時間以内で行けてしまいますから若い人にとっては魅力的なのでしょう。薬剤師も同様で、若手薬剤師は県内よりも福岡県などの都市圏に出て行ってしまう傾向があり、薬剤師不足は深刻です。県内でも、特に地方部には若い人がおらず、薬剤師が足りていない状況です。こうした課題があるなか、我々としてはさまざまな取り組みを通して、薬局、薬剤師の地域密着を根強くやっていこうと取り組んでおります。
―薬剤師会独自で「おおいたのおんせんの顔」(2013年刊)や「おんせん県おおいたの飲泉スポット30」(2017年刊)を発刊されていますが、どのような経緯で作られたのでしょうか。
昭和56年に設立された大分県薬剤師会検査センターでは、空気、食品、水、温泉、土壌、河川、放射線といったさまざまな検査を行っています。日々、公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与することを目的に検査を行っていますが、せっかく温泉の検査分析をやっているわけですから、これを活かして何かできないかと考えました。大分県は温泉の湧出量日本一を誇っています。大分県民、特に子どもたちに温泉について知ってもらう、大分の魅力について学んでほしいという思いで本を作成しました。
「おおいたのおんせんの顔」では、温泉に含まれる成分を顔のパーツに例えてデザインし、各温泉の特徴を表しています。例えば、温度が高い温泉は真っ赤な顔、温度が低い冷鉱泉は水色の大きな顔で描いています。
「おんせん県おおいたの飲泉スポット30」では、県内の飲泉許可施設から30カ所を選び、泉質や味、適応症と禁忌症などを写真付きで紹介しています。含有成分によっては、この量以上は飲まない方が良いということも記しています。皆さんが良く知っている温泉の概念だけではない、薬剤師会だから伝えられる温泉の魅力を見せられたらという思いで作成しました。 いずれも図書館や学校などへ寄贈しています。子どもたちからは「温泉ってこうなんだ!」と驚きの声があがっていて、評判も良いようです。一見、薬局や薬剤師の業務から遠いようにも思えますが、より広い意味での地域への密着も重要だと考えています。多くの人、特に若い子どもたちに大分県の魅力を感じてもらい、将来は地元で活躍してほしいという思いがあります。
*「おんせん県おおいたの飲泉スポット30」紹介
2017年発行。泉質や味、適応症と禁忌症のほか、1日の飲用許容量や衛生面での留意点も紹介。
「おおいたおんせんの顔」同様に、顔の色やパーツで泉質の特徴が表現されています。