2019年9月7日(土)、東京都港区のネクスウェイセミナールームにて、「薬剤師が関わる生と性」をテーマにしたセミナーイベントが開催されました。
不妊治療に取り組む国内のカップルは、現在、約6組に1組だと言われています。多くの男女が不妊・妊娠・出産、そして避妊や生むタイミングといった「生と性」にまつわる問題に悩まされており、またその悩みを、周囲の人に打ち明けらず抱え込んでいるケースが多いのです。
晩婚化・晩産化が進み、働く女性増え続けているいま、患者さんは、いったいどのような現状に置かれているのか。また薬剤師は、どのような知識を身につけ、それらをどこまで踏み込んで患者さんに伝えていくべきなのか。4名の専門家による興味深いセッションが行われた本イベント、その様子をレポートします 。
Session 1 薬剤師の皆さんに知っておいてほしい婦人科領域のこと
丸の内の森レディースクリニック 宋 美玄 先生
最初に登壇したのは、メディアでの積極的な発言や多くの著書で知られる婦人科医・宋美玄先生。
壇上に立ちマイクを握ると、「『女性には毎月生理が来るのが当たり前』『生理は自然の摂理』『女の証である』、そんな言葉をよく聞きますが、こんなに毎月生理が来るのは最近の女性だけ。100年前の女性は年に数回しか生理がありませんでした。生理がくるのは、当たり前でもなければ仕方ないことでもない。無理して我慢するようなことではないんです」、こう力強く切り出しました。その後、100年前の女性が生涯で経験する月経は平均50回、現代の女性は平均450回であること、月経回数の増加による子宮内膜症や子宮筋腫に悩まされる女性がいかに多いかなどについて丁寧に解説。生理による痛みや不快感をただただ我慢している女性たちに対し、自信をもって、「生理は薬で止めてしまってもまったく問題のないもの」「赤ちゃんがほしい人以外には特に意味のないもの」「受診や薬によって軽くできること」を伝えてほしい、と語りかけました。
次に宋先生が取り上げたのが、「妊活モチベーションが高い人」へアプローチの仕方です。婦人科医として特に薬剤師に知ってもらいたい・広めてもらいたいのが、排卵検査薬の有効性。基礎体温が上がってからタイミングを取るのでは遅いということや、排卵日の2日前が最適のタイミングであること、着床しやすい時期を捉えるには「基礎体温+排卵検査薬」を活用することが有効であると説明しました。また、「排卵検査薬を買っている人はほぼ100%妊活中ということでもあります。見かけたら、『標準体重を保つこと』『タバコはダメ』『風疹の予防接種や検査を受ける』『婦人科検診、特に子宮頸がん検診も忘れずに』『葉酸サプリを飲む』といった基本的な情報を提供しあげて」と宋先生。特に、子宮頸がんについては、「妊娠によってはじめて婦人科を受診し発覚するケースがとても多い病気。妊娠中に見つかったらシャレになりません。妊活中の女性を見かけたら、ぜひ検診を受けているか聞いてあげてください」と重ねてメッセージを送りました。
セッションの終盤では、避妊についても言及。コンドームによる避妊失敗率が14%と高いこと、安価で、安全で、簡便で、なおかつ成績がよく性感を損なわないピルが有用な存在であることなどを説明しました。
「それから、アフタービル。私を含む産婦人科医の有志9人で行ったSNS調査では、約7割の産婦人科医がアフターピルの市販化やオンライン処方を肯定していることがわかりました。将来的に薬局で販売されることになると思いますので、ぜひ注目していてくださいね」(宋先生) 参加した薬剤師の皆さんも、メモを取るなどしながら真剣に聞き入っていた様子。月経・妊活・避妊に関する知識や現状、薬剤師に伝えてほしいことなどを総合的にレクチャーする、充実したセッションとなりました。
Session 2 「ふたりの妊活」の大切さと、男性のセルフチェックについて
株式会社リクルートライフスタイル 入澤 諒 氏
続いて登壇したのは、株式会社リクルートライフスタイルの入澤諒氏。前職で女性の生理日や基礎体温を管理するアプリを開発しており、その経験を生かして、スマホで簡単に男性の精子状態ができるセルフチェックキット「Seem」を開発しました。
「『妊活は男女ふたりで取り組むもの』、それが当たり前であるという新しい文化をつくりたいと考えて、Seemを開発しました」
こう話し始めると、日本の出生数が2016年に初めて100万人を下回ったこと、約6組に1組のカップルが不妊治療に取り組んでいること、このような現状があるにも関わらずいまだに不妊治療は女性だけの問題だと捉えられるケースが多いことを解説しました。
「体外受精に取り組むカップルはのうち、1/4は男性側の要因、1/4は男女双方の要因で不妊になっていることがわかりました。つまり不妊原因の約半分は、男性の問題でもあるということ。女性ばかりが検査し、治療を続け、男性の参加が遅れることで、大変なお金と時間が無駄になるのです」
続けて、体外受精や顕微授精の費用、フローをレクチャー。また、Seemを使えば、自宅で簡単に精子の運動率や奇形率がわかること、WHOが公表している自然妊娠できる下限値と比較できることなどを説明しました。
「実際にSeemを使って無精子症であることがわかり、すぐに病院で精子を取り出す手術と体外受精を行い妊娠・出産に至ったケースもありました。子どもを望むカップルは、いま、日本に約60万組いると言われています。私は、男性が早い段階で不妊治療に取り組むことによって、そのうち1万組ぐらいが子どもを授かれるのではないかなと思うのです。1万人の赤ちゃんが生まれるというのは本当にすごいこと。これからも、少しでも男性の不妊治療参加者を増やしていきたいと考えています」(入澤氏)