狭間 研至 氏(一般社団法人薬剤師あゆみの会 理事長、ファルメディコ株式会社 代表取締役社長、一般社団法人日本在宅薬学会 理事長、 医療法人嘉健会思温病院 理事長・院長)
平成7年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪急 性期・総合医療センター)宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。
平成12年大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究 および臨床業務に携わる。平成16年同修了後、現職。 医師、医学博士、一般社団法人日本外科学会 認定登録医。 現在は、地域医療の現場で医師として診療を行うとともに、一般社団法人薬剤師あゆみの会、一般社団法人日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、多数の大学薬学部での非常勤講師として薬学教育にも携わっている。
狭間研至氏が理事長を務める薬剤師あゆみの会は、薬剤師認定制度認証機構より「薬剤師生涯研修認定制度」の研修プロバイダーとして認証を受け、地域に密着した「かかりつけ薬剤師」の育成を目標に、様々な薬剤師研修プログラムを提供しています。コロナ禍でオンライン研修が急速に進化し、薬剤師の生涯研修の在り方は大きく変わっていくと考える狭間氏に今後の薬剤師研修についてお話を伺いました。
コロナ禍で生まれた新たな研修スタイル
―コロナ禍において、研修の在り方も相当変化があったと思います。あゆみの会、日本在宅薬学会のそれぞれの研修の変化についてお聞かせください。
まず、バイタルサイン講習会などリアルでないと難しい研修や、毎年3泊4日で60人くらい集めて行っていたあゆみの会の新人研修などは全て中止になりました。
そしてWEBでの研修にシフトしていったのですが、その取り組みの中でも、1200人規模の学会と懇親会をオンラインで開催できたことには、新しい可能性を感じました。長崎からオンライン配信を行ったのですが、地元のテレビ局や行政の協力を得てライブ配信を行い、地元の名産品を購入して受講者に郵送で配布し、それを食べながら懇親会を実施するなど、観光産業が軒並み落ち込む中、地域にも貢献できる新たな手法が生まれました。
一方で、バイタルサイン講習会は、血圧計を受講者に送るなどして、オンライン研修を試してみましたが、やはりリアルで体感するインパクトが大事なので、難しいかなと思いました。今後は、人数を10人前後に減らして、当日の体調チェックや感染対策をしながら今まで通りリアルで開催していくことになると思います。
学術会議はリアルとバーチャルを組み合わせてハイブリッドで実施する予定です。1会場だけ借りて、オンデマンド配信とライブ配信を組み合わせながら行うという方向でプログラムも大体固まってきました。去年は完全オンラインで実施しましたが、ワクチン接種も始まりますし、ウィズ・アフターコロナの時代に向けた、然るべき学術会議を模索していきたいと思っています。
―オンラインの研修におけるメリット及びデメリットはどんな点でしょうか?
学術会議、講習、研修という中での課題は、思ったより少ないと思います。僕らもメーカーさんの研修会などは参加しやすくなりました。
知識の伝達という面では、むしろ画面がしっかり見えたり、音がちゃんと聞こえたりと、研修効率としてのメリットは大きいですよね。スモールグループディスカッションなども、ブレイクアウトルームに飛んでもらってそこで議論して戻ってきてもらうなど、事務局の操作の慣れが必要ですが、結構うまくできています。
ブレイクアウトルームで1人ずつ振ると結構楽しそうにみんな話をして、リアルじゃないから逆に発言しやすいというのもあるかもしれません。例えば50人いる会場で「質問ある人?」と言うとみんな手を上げないのですが、チャットに書いていいですよと声を掛けるとみんな好きなことを書いてくれるので、質問を取り上げてフィードバックするなど、質疑応答が活発になります。
一方でデメリットとしては、バイタルサイン講習会もそうですけれども、同じ時間、同じ空間で同じ問題に取り組むというのはすごく大事なことで、その場の雰囲気や熱気を体感できないので、参加者との距離を詰めるのが難しいですね。その点は課題かなと思います。
急増するオンライン研修のニーズに合わせ、単位管理もIT化すべき
―薬機法の改正、オンラインの普及と薬剤師を取り巻く環境が大きく変化していく中で、薬剤師の研修はますます求められていくものと考えます。今後、どのような研修が求められていくのかアイデア等ありましたらお聞かせください。
今後の研修は2つ面のにおいて、大きく変わっていくと思います。
一つは、WEBの研修がさらに広がるということです。新人研修など3泊4日でやっていたのを、今後は1年を通して行おうと思っています。月1回程度オンライン研修を開催して、そこで受講生だけのスモールグループを作り、次の研修までの間に、そのスモールグループで集まって話し合ってもらい、テーマの答えを自分なりに考えて次の研修に臨んでもらうという方法を考えています。これまでは、月1回大阪に全国から新人を集めるなんて現実的ではないので3泊4日で泊まり込みの合宿をしていましたが、むしろ月1回という継続研修ができるので、研修効率があがっていくと思います。
もう一つは、認定薬剤師や専門薬剤師などの単位管理のあり方が変わっていくと思います。
我々も研修を行うので、薬剤師研修センターへ受講証明の提出や発行などの事務作業をしますが、すごく煩雑ですよね。研修もオンライン化が進んでいますので、単位管理についても、手帳やシールから脱却して、WEB上に移行させ、簡素化してく必要があると思っています。そのための準備を、他のプロバイダーと共同で進めて行こうとしているところです。
研修の受講スタイルと単位管理のIT化という2点が、コロナ前後で大きく変わっていく点だと思います。
―アスヤクLIFE研修は、全国の薬剤師の研修一覧を集約するサイトとして11月にオープンしました。先生のご感想や期待することをお聞かせください。
WEBで検索して、WEBで参加できるので、今の時代にすごくマッチしているように思います。オンライン研修が増え、離島や山陰地方の方、子育て中の方など物理的に参加が難しかった人が、簡単に参加できるようになりました。移動中にスマホで聞いたりオンデマンドで聞けたり、受講スタイルも飛躍的に進化していますので、生涯学習の方法というのは非常に大きく変わるだろうと思いますね。
地域連携薬局や専門医療機関連携薬局など、薬剤師は何をするべきかという課題が浮き彫りになっている中で、今後は、系統的な教育が必要になっていくのではないでしょうか。研修を提供する側も、fromとtoを明確にした研修プログラムを提供していくことがより重要になってきます。今までのように、ただ参加して自分の武器を増やせば良いという研修では、患者さんにそのスキルをいかしきれません。
薬剤師の役割が明確になった分、その役割を担うためには、単発ではなく年間を通しての継続研修なども必要になります。オンラインを活用すればそれが可能になりますし、そういった研修を提供していくのが、各プロバイダーの使命になっていくのだろうと思います。