コラム記事

[アスヤクLIFE研修コラボシリーズ]
〜薬剤師研修会の未来を考える〜
第2回 クオール株式会社 クオールアカデミー・教育研修部 部長 長沼 未加 氏 

長沼 未加 氏(クオール株式会社 クオールアカデミー・教育研修部 部長)
研修認定薬剤師、健康サポート薬剤師、認定実務実習指導薬剤師、星薬科大学非常勤講師。
1994年東京理科大学薬学部卒。2社の保険調剤薬局を経て、2002年クオール株式会社入社。2012年9月クオールアカデミー・教育研修部統括主任となり、現在は教育研修部部長とクオール倫理審査委員会の委員長を兼務。社内外の様々な研修を手掛けている。

クオール株式会社のクオールアカデミーにて2012年から教育研修を統括されている長沼未加氏は、社内の新人研修から教育研修、また社外の大規模な研修まで、幅広く様々な研修を企画・開催されています。2020年のコロナ禍において、企業の教育や研修の在り方が劇的に変化した中で、ITツールを活用した新しい形の研修作りに積極的に取り組む長沼氏に、今後の教育研修に必要な要素を伺いました。

オンラインならではの仕掛け作りで、新しい研修を開発

コロナ禍において、企業の研修の在り方も相当変化があったと思います。クオールの研修の変化についてお聞かせください。

新人研修は毎年、数百人規模で1箇所に集まっていましたが、コロナ禍で急遽そのような形では実施できなくなりました。そのため、エリアごとに感染対策をしながら少人数での入社式と研修、その後の仮配属店舗でのOJLとオンライン研修ということになりました。

今回は、まずはエリアごとに少人数で集まり、そこで出来ることに前半部分は集約し、その後はリーダー対新人という1対1の教育体制を取りました。リーダーに今まで以上に密度の濃いトレーニングができるような指導用教育資材を提供し、さらに新人自ら学べるWebコンテンツもかなり充実させました。

新人研修中にWEBを使って座学の時間もしっかり取り、そこからプロブレムをたてて、実践、フィードバックしていくということを繰り返し、3ヶ月目に総合スキルチェックという卒業試験に挑んでもらいました。


その他の本年度の研修は、すべてオンラインやイーランニング、Q.O.L.S.(クオールズ)というクオールオリジナルラーニングシステムで作った動画の講座で行いました。オンライン研修についてはZoomやTeamsなど様々なツールを使いながら、その時々で有効なシステムを選びながら行いました。研修後に録画をオンデマンドで流したり、ブレイクアウトルームで少人数のディスカッションを行ったりと、色々な仕掛けを作り、参加者が意欲的に取り組める研修に新しく組み替えていったというのが今年一番の大きな変化です。



オンライン研修のマナーなどはマニュアル化されているのですか?

講師側の台本はかなり工夫して作り込んでいます。まずはWEB会議システムのコントロールの仕方やチャットルームの使い方を覚え、その機能をスムーズに使えなくてはいけません。参加者の集中力を切らさないために、質問ごとにチャットや手上げ機能・投票を使って反応方法を変えるなど、色々な仕掛けが必要になってきます。運営側の事前の進行シミュレーションも重要になります。

講師のトレーニングというのは今までもやっていたのですが、オンラインだと違う視点からのマナーも必要です。受講生側の注意点もかなりあったので、事前に注意事項のシートを送ったり、研修開始前に受講にあたっての説明を表示して見せたり、なるべくスムーズに研修に入れるよう、事前の説明を細やかに行いました。受講前、中、後のマニュアルも整備しました。



オンラインの研修におけるメリット及びデメリットをお聞かせください。

メリットは、細かい課題毎に短時間のタームで繰り返し研修を行えるので、定着する仕掛けが作りやすいという点です。今までの研修は決められた時間がありその時間内に多様な研修を詰め込むという形でした。オンライン研修にすることで、事前に一つの課題を与え、「ここまでは理解して参加してね」ということができ、自己研鑽に自分なりの時間がかけられるようになりました。そのため、自分なりの理解と意見を持った状態でワークに参加できるので知識が定着しやすい。これはすごいメリットだと思っています。

後は、画面越しに一対一感がでるということです。講師と参加者が全員同じ距離になりますので、受講生側からすると講師が近いと感じられるのもメリットです。そして、移動や宿泊がないという点ですね。遠い会場だったら前泊が必要になる、シフトが組みにくいなどの問題がありますが、店舗にいながら短時間で参加できるというのはすごく大きいかなと思います。



逆に改善すべきところやデメリットはありますか

改善するべきところという点では、通信環境の整備ですね。やはり事前に予期せぬことが起こることがありますし、通信環境で音声が途切れると研修効果が半減してしまいます。また、参加者のITリテラシーが低いと参加時のトラブルの対応に時間がかかるなどの問題がありますが、これは慣れていくことで解消されていくと思います。

後は受講環境ですかね。慣れた環境は良い面もありますが、リラックスし過ぎたり、気が散って授業に集中出来ないということもあるかもしれません。薬局の休憩室などで受講していると、患者様の目や受講生以外のスタッフの出入りなどがあるので、受講環境の整備が課題であるかなと思います。



長沼さんは保険薬局協会の健康サポート薬局の研修も、発足から努めています。この研修も2月から完全オンラインで取り組むと聞いています。完全オンラインを実施するうえで大切な視点をお聞かせください。

社内研修とは違い、全く知らない人たちが多数集まる研修では、参加する人が戸惑わないようきめ細やかな配慮が必要になってくると思います。その反面、全部を満遍なく聞いていると際限なくなってしまうので、ルールを明確にしつつ、事前準備をしっかり行うことが重要になってくるのではないでしょうか。



―対面の研修とは準備もかなり違ってきますか?

オンラインでの受講は集中力に限界がありますので、こまめに休憩時間を取ったり、通信環境に配慮したり、事前課題を与えるなどの工夫が必要になりますね。 講師側にもオンラインならではのスキルが求められます。スムーズにディスカッションに移行したり、団体での講義に戻ったりなど、オンラインシステムの特徴を活かして、機能を使い切る。そして受講者に負担なく、ワクワクして参加してもらえるバーチャル空間作りがとても大切だと思っています。

オンライン研修の進化がITリテラシーの高い薬剤師育成につながる

アスヤクLIFE研修は、全国の薬剤師の研修一覧を集約するサイトとして11月にオープンしました。ご感想をお聞かせください。

色々な団体の研修が集約されているサイトというのはなかなか無いので、とても便利だと思います。今は学会やセミナーも少ないのですが、このサイトだと単位認定シールが発行される研修なども探しやすいので認定薬剤師更新にも役立ちますね。弊社の教育担当者にも便利なサイトがあるよというのを教えたいという意見もでていました。



最後に、今後の研修はどうなっていくと思いますか

ハイブリット型の研修の良い所がかなり見えてきましたし、受講生や講師の負担軽減にもなりますので、今後もハイブリッド研修が続いていくと思います。

これからは、自己研鑽に励む意欲のある人は、どんどん研修に参加できるようになりますので、参加者の意欲を高めるための色々な仕掛け作りや、より双方向で画面越しであってものめり込む研修にしていくことが大切です。イベント感やワクワク感を持って参加してもらい、受講生同士が繋がりを持って、お互いに切磋琢磨しながらみんなが楽しみながら学べる場所に進化していくと良いなと思っています。

そして将来的には、そこにAIやチャットボットが入ってくるなど、さらにIT化して、色々なものと融合していくのではないでしょうか。そのような環境に慣れていくことは、オンライン診療や、ITを活用した僻地医療などにつながっていくと思います。「未来薬局」に耐えうるITリテラシーの高い薬剤師の育成というのが、今後のミッションになってくるのではないでしょうか。




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