薬剤費の考え方が変わる?〜薬剤自己負担の見直しに関する議論

令和5年度診療報酬改定に向けて様々な議論が進められています。
議論されているのは診療報酬改定以外だけではなく、薬価制度や医療制度に関する議論も行われています。
今回はその中でも特に気になる薬剤自己負担に関する議論について徹底解説してみたいと思います。

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薬剤自己負担に関する議論が進められています。以前から繰り返し議論されているテーマですが、今回議論を進めるようになった原因は「骨太の方針2023」の中で創薬強化のために長期収載品の在り方を見直すべきと明言されたためです。議論の中では「薬剤定額一部負担」、「薬剤の種類に応じた自己負担割合の設定」、「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」、「長期収載品の自己負担の在り方の見直し」の4つの案が出され、年末までに方向性が決まる予定になっています。皆保険制度を維持しつつ、創薬力を強化していくため、日本の医療制度は大きな岐路に立たされています。

1、薬剤費自己負担に関する議論

この章のPOINT

過去に繰り返し議論されてきた薬剤自己負担の見直しですが、「骨太の方針2023」の中でドラッグラグ・ロスの問題に対応するため、適切なイノベーションの評価を行う必要があり、そのためにも長期収載品の評価を見直しを進めるべきと明記されました。現在、4つの案が出されており、年末までに方針が決められる予定です。

令和5年9月29日、厚生労働省は第168回社会保障審議会医療保険部会を開催しました。

社会保障審議会医療保険部会は医療保険制度や高齢者医療制度、診療報酬改定に関する審議を行なっており、この日は在宅におけるオンライン資格確認の導入や令和6年度診療報酬改定の基本方針の確認、後期高齢者の窓口2割負担導入の影響等について審議されました。


その中で注目したいのが「薬剤患者自己負担の見直し」というテーマです。

この議論のきっかけは今年6月に内閣府が公開した骨太の方針2023(経済財政運営と改革の基本方針2023)にあります。該当部分を書き出してみます。

2.持続可能な社会保障制度の構築
(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)
 創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むス タートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため260、長期収載品261等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。

260 GDPに占める日本の医薬品等の支出は他の先進国よりも高い一方、世界の医療用医薬品の販売額における日本国内の販売額のシェアは低下しており、こうした状況の中で国民負担の軽減とイノベーションの推進を両立する観点から、中長期的な薬剤費の在り方の議論も含めて、取組を進める必要がある。
261 後発医薬品への置換えは数量ベースで約8割に達しようとしているが、金額ベースでは約4割と諸外国と比較しても低い水準。


経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜(令和5年6月16日)|内閣府

こちらについてはVol.30 骨太の方針2023と薬局の未来を描く議論でも解説させていただきました。

簡単にいうと、ドラッグラグ・ロス(日本国内における医薬品承認の遅れ、未開発)を解消するためには、イノベーションの適切な評価=つまりは薬価による評価が必要あり、その財源を確保するためにも長既収載品等の自己負担を見直していく必要があるんじゃないかということです。

今回の社会保障審議会医療保険部会をきっかけに、薬剤費自己負担の見直しについて議論が開始されていくことになりますが、その方法として、以下の4つの案が提示されています。


  • 1、薬剤定額一部負担
  • 2、薬剤の種類に応じた自己負担割合の設定
  • 3、市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し
  • 4、長期収載品の自己負担の在り方の見直し

この4つの案のうち、どれが選ばれるのか?全く別のものになるのか?そもそも直し自体を行わないのか?
その方向性を含めた議論が実施され、年末にかけて取りまとめを行うことになっています。

2、薬剤自己負担に関する4つの案

この章のPOINT

薬剤自己負担の見直しを行うための4つの案が出されています。「薬剤定額一部負担」は日本で過去に導入されていた薬剤一部負担制度やスウェーデンの精度を参考に、「薬剤の種類に応じた自己負担割合の設定」ではフランスの制度を参考に、「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」では保険外併用療養制度の活用も視野に、「長期収載品の自己負担の在り方の見直し」では参照価格制度を踏まえた議論が行われています。

この章では1章で紹介した4つの案について解説していきたいと思います。

1、薬剤定額一部負担

資料の中では「外来診療や薬剤支給時に、薬局窓口等において、薬剤に関する定額負担を求める」とされています。

少しイメージしにくいかもしれませんが、実際に平成9年〜平成15年に薬剤一部負担制度が導入されていました。

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