【開催研修レポート】
地域との絆がソーシャルキャピタルを高める~薬局とのつながりで健康になる~

2022年3月に開催されたアスヤクLIFE研修では、つながりと健康について社会疫学を学ぶ笠原正幸氏にソーシャルキャピタルについて講演して頂きました。

実際にソーシャルキャピタルによって地域住民にどのようなメリットが生まれるのか、取り組む際の注意点や、薬局・薬剤師がどのような役割を担っているのか、実体験を元にお伝えします。


【ソーシャルキャピタルとは?】
「ソーシャルキャピタル」とは、人と人の結びつきを支える仕組みの重要性から、人々の協調行動によって社会の効率性を高めることができるという概念です。超高齢社会を迎え、地域包括ケアの推進と共に住民の自立や共助が啓発されるようになった背景もあり、今、この考え方が注目されています。

1.ソーシャルキャピタルに取り組んだきっかけ

服薬指導・支援だけで、患者さんの生活環境を変えるということには限界がある

薬局内で患者さんへの服薬指導・支援では患者さんの生活環境を変えるのには限度があります。ソーシャルキャピタルを活用して相互扶助のネットワークを構築する事で、地域全体の活性化にもつながり、人も街も健康になると感じています。

以前、投薬中に降圧薬を服用している患者さんから「これまで教えてもらった方法をやったけれど、なかなか血圧が下がらないどうしたらいいですか?」と質問された事があります。その場ですぐに答えらず、「次回までの宿題とさせてください」とお茶を濁してしまいました。

その日のお昼に、近所のお総菜屋さんにお弁当を買いに行った際、気がかりだった先ほどの出来事について愚痴をこぼしてしまったところ、お惣菜屋さんに店主から「私に出来ることがあれば協力するよ」と、『高血圧患者にも良い自宅で簡単りんご酢の作り方」や「日本全国の郷土料理のレシピから身体に良いヒントを得るレシピ』を作ってくれたりと、薬局で提供する健康イベントにも協力を貰えるようになりました。

そこで私が感じたのは、患者さんの生活習慣を変えるには、本人の気づきももちろん大切ですが、抱える課題をみんなで共有する事で「周りの環境が変わることが重要」ということでした。

服薬指導・支援の時に、私が患者さんに対して要領のいい回答をしていたら、その患者さんが実践するだけで完結してしまいます。お惣菜屋さんに相談した事で、「高血圧で困ってる人がいる」と共通の課題として認識してもらい、なにかリソースがあれば地域の為に提供してもらえるのです。そうする事で、相談してくれた患者さん本人以外にも、同じ課題を抱えている多くの患者さんにとって恩恵が受けられます。

そういった意味では、服薬指導・支援はきっかけ作りにはなりますが、そこだけでは完結できないと感じました。

2.ソーシャルキャピタル実施のポイント

ソーシャルキャピタルを実施するのには、3つの要素「①信頼」「②規範(互酬性)」「③ネットワーク」があります。これらが相互に関連し循環していくことで社会の効率性が高まり、より健康的で住みやすくなっていく、これこそがソーシャルキャピタルなのです。

①信頼 ~コーチングで患者さんとの信頼関係をつくる~

コーチングとは相手の話に耳を傾け、観察や質問、時に提案をして相手の内面にある答えを引き出す手法の事です。服薬指導・支援において、一方的に知識のアウトプットをするだけでは信頼は得られません。患者さんを観察する事で潜在的な課題に気づく事が出来ます。

いつも薬局に寝巻や汚れたままの服を着てくる患者さんがいれば、「洗濯などの家事をする余裕や、手伝ってくれる人がいないのかな?」と背景を推察する事が出来ます。仮説を元に、地域のクリーニング屋さんを薬局の健康イベントで話をしてもらったり、逆にクリーニング屋さんに、相談して地域住人に向けてどんなサービスがあるのかPRしてもらう事ができます。

また、頭髪のケアが出来ていない人は床屋さんに相談するなど、商店街の人々を資源として活用させてもらい、そこに患者さんをつなぐようにしていくと、自然と患者さんや地域からの信頼を得られます。

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