電子処方箋の仕組みとその真価〜医療情報の電子化が描く薬局の未来

 皆さんの薬局は電子処方箋の導入は完了していますか?


 まだ検討中だったり、申し込みは完了して導入待ちという薬局も少なくないと思います。医療DX推進体制整備加算の施設基準である「電子処方箋を受け付ける体制」の経過措置が令和7年3月31日までなので、それまでに導入予定というところが多いのかもしれません。

 導入してみると実感できるのですが、電子処方箋導入の真価は単純に紙の処方箋がなくなることではなく、よりリアルタイムに近い処方情報・調剤情報の共有が進み、それを様々な形で利用可能になるところにあります。


 今回は電子処方箋について改めて復習するとともに、今後開始される電子カルテ情報共有サービス、さらには電子処方箋等検討ワーキンググループで検討されている追加機能を紹介しつつ、薬局の業務がどう変化していくかについて徹底解説!したいと思います。

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 医療DX推進整備体制加算の施設基準の一つになっていることもあり電子処方箋は各薬局への導入が進みつつあります。処方箋が電子データ化されることで、紙にはない利便性を持ち、調剤後も保管スペースを確保したり管理業務を行うことが不要になるメリットがあります。ですが、電子処方箋を導入することによるメリットは電子処方箋を扱うことができることよりも、電子処方箋管理サービスを介した処方情報・調剤情報の共有にあります。ほぼリアルタイムに共有される情報により、処方時、調剤時に重複投与や併用禁忌のチェックをかけることが可能となっていますが、今後、この機能の拡充が検討されています。反面、これまで薬局の機能として期待されてきた薬剤の一元管理やそれを用いた疑義照会については不要となる場面が増えてくる可能性があります。ですが、だからといって薬局が不要になるわけでなく、医療DXが進む未来ではより大きな役割が期待されており、それは現在の業務においてもすでにはじまっています。

1.処方箋の電子化

この章のPOINT

 電子処方箋はこれまで紙でのみ扱っていた処方箋を電子化(データ化)したものです。薬局で電子処方箋を受け付けるにはマイナ受付時に顔認証カードリーダーを介して患者さんが薬局にデータを提出する方法と電子処方箋とともに紙で発行される処方内容(控え)に記載されている引換番号をレセコンに入力することでデータを取り込む方法があります。処方箋発行元が電子処方箋に対応した場合、電子と紙のどちらでも対応可能になりますが、紙の場合でも引換番号が印字されるようになります。電子処方箋の調剤完了後は薬剤師が調剤済の押印を行う代わりにHPKIカードによる電子署名を行います。直接データを扱うことにより、処方内容をレセコンに手入力する手間や、調剤後の処方箋を保管するスペースを用意したり整理する作業が不要になるのが処方箋が紙から電子に変わるメリットです。

 電子処方箋とは、紙の処方箋ではなく電子化された処方箋を意味する言葉ではありますが、電子化した処方箋を取り扱う(電子処方箋管理サービスに接続する)ためのシステムを指す言葉として利用する場合もあります。今回の記事ではその部分をわかりやすくするため、「電子処方箋」という言葉と「電子処方箋システム」という2つの言葉を使い分けて書いています。


 まずは電子処方箋システムの導入の流れについて簡単に復習してみます。

電子処方箋システムの導入と電子処方箋管理サービス

 電子処方箋システムの導入に先駆けた準備として、オンライン資格確認等システムの導入と保険薬剤師のHPKIカードの発行、システムの利用申請が必須となっています。


 まず、オンライン資格確認等システムの導入についてです。電子処方箋データを扱う電子処方箋管理サービスはオンライン資格確認等システムを基盤とするため、オンライン資格確認等システムを導入していないと電子処方箋システムは利用できません。これについては、すでに義務化されているため、全ての薬局が対応済みと思います。


 次に、HPKIカードの発行についてです。電子処方箋は紙の処方箋と異なり、処方医の押印、調剤を行った薬剤師の押印の代わりに電子署名を行う必要があります。そのため、HPKI(保健医療福祉分野公開鍵基盤:Healthcare Public Key Infrastructure)証明書を内包したHPKIカードが必須となっており、これがないと電子処方箋による調剤を行うことができません。電子処方箋のシステム自体はHPKIカードがなくても利用できますが、電子処方箋による調剤を前提とするシステムといなっているため、HPKIカードの発行が必須となっています。


 最後に利用申請です。オンライン資格確認等システムと同様に、電子処方箋システム導入前に医療機関等向け総合ポータルサイトへの利用申請を行う必要があります。この作業は薬局や医療機関で使用しているシステム(レセコンや電子カルテ等)と電子処方箋のシステムを接続するために必要になります。


 これらの準備を行った上で、システムベンダーに依頼して電子処方箋システムが導入されるのですが、運用を開始する際には医療機関等向け総合ポータルサイトへ運用開始日を登録する必要があります(これもオンライン資格確認等システムと同様ですね)。この情報を元にシステムの利用状況が共有され、厚生労働省のホームページ(電子処方せん対応の医療機関・薬局についてのお知らせ)で公開されている「電子処方せん対応の医療機関・薬局リスト」への掲載が行われます。

 また、電子処方箋システムには複数の機能追加が行われており、その一つとしてリフィル処方箋の対応があります。電子処方箋のシステムを導入しているだけでは電子処方箋のリフィル処方箋(電子リフィル処方箋)に対応することはできず、機能追加(別途システム導入)が必要なので注意が必要です。

 電子リフィル処方箋を運用するために必要な機能追加を行った場合も、別途、運用開始日の登録が必要なので忘れないようにしましょう。


 電子処方箋システムはオンライン資格確認等システムを基盤とする電子処方箋管理サービスによって構築されています。

「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

 保険医の処方内容のデータを電子処方箋管理サービスに送信(この際に保険医のHPKIカードが必要)することで電子処方箋が発行されます。電子処方箋を応需した場合、薬局は電子処方箋管理サービスから電子処方箋を取得し、調剤を行います(調剤完了時に保険薬剤師のHPKIカードが必要)。


 電子処方箋管理サービスはオンライン資格確認等システムを基盤とするシステムではありますが、医療機関や薬局がオンライン資格確認等システムを導入すれば使用可能であり、電子処方箋の発行やそれを用いた調剤は患者さんがマイナ受付(マイナンバーを利用した受付)を行うか否かにかかわらず可能となっています。

電子処方箋の発行と受付・調剤の流れ

 まずは電子処方箋の発行について説明します。


 電子処方箋システムを導入している医療機関であっても、電子処方箋を発行するか紙の処方箋を発行するかは患者さんが選択可能となっており、マイナ受付を行う場合は顔認証システムで選択、健康保険証による受付を行う場合は口頭確認による選択が行われます。

「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

 電子処方箋が発行された場合、紙の処方箋は発行されず、電子処方箋は電子処方箋管理サービスに保管されます。代わりに「処方内容(控え)」という電子処方箋の引換番号とそのQRコード、簡単な処方内容(用法の記載なし)が印字された用紙が発行されます。紙の処方箋が選択された場合でも、処方箋発行元が電子処方箋に対応している場合は引換番号が印字されるようになっているため、これにより処方箋発行元が電子処方箋に対応していることを確認することが可能です。

「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

 次に電子処方箋の受付・調剤についてです。


 まず、薬局に電子処方箋の発行を受けた患者さんが来局した場合、薬局が電子処方箋システムを導入していない場合は対応できません(電子リフィル処方箋に対応するためにはさらに追加のシステム導入が必要です)。

 患者さんがマイナ受付を行った場合、顔認証付きカードリーダー上で電子処方箋の提出が可能です。電子処方箋が発行されている患者さんが顔認証付きカードリーダーによりマイナ受付を行う際には、診療情報・薬剤情報の提供の同意とともに、提出する処方箋が電子処方箋が紙の処方箋のどちらかを選択することが可能となっており、電子処方箋を選択すると電子化された処方箋データがレセコンに取り込まれます。

「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

 マイナ受付を行わない場合は、電子処方箋の発行時に紙で発行されている「処方内容(控え)」に記載されている「引換番号」をレセコンに入力(もしくは引換番号とともに記載されているQRコードを読み取る)ことで電子処方箋を受け付けることが可能です。


 引換番号を用いることで、電子処方箋に対応している薬局であれば来局前にあらかじめ処方箋データを送信することも可能です。引換番号と本人を確認できる被保険者番号等があれば薬局はその情報を元に処方データを取得、電子処方箋の場合は原本を取得可能なので来局前に調剤を開始することも可能です。

 また、電子処方箋の送信については、電子お薬手帳の新たな機能として、各電子お薬手帳アプリに追加されています。


 電子処方箋では直接処方箋データを取り込むことができるので、これまでの紙の処方箋のように手入力を行う必要はなく、レセコン入力作業を軽減させ、入力ミスを減らすことが可能となります(この点についてはQRコードとほぼ同等のメリットと思います)。

 また、紙の処方箋がなくなることにより、保管スペースが不要となり、処方箋を整理する作業がなくなることもメリットになります。

「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

2.電子処方箋の本当の価値

この章のPOINT

 電子処方箋が導入されることによるメリットは紙である処方箋が形を持たなくなることによる利便性の向上や管理コストの削減だけではありません。電子処方箋を取り扱うデータベースである電子処方箋管理サービスを介した情報連携を行うことが可能になることが最大のメリットとなります。発行された電子処方箋は電子処方箋管理サービスに保存され、調剤を行う薬局は電子処方箋管理サービスから処方データを取り込むことで調剤を行い、調剤終了後は調剤データを電子処方箋管理サービスに保存します。電子処方箋の運用を開始している薬局・医療機関では処方箋が紙か電子かにかかわらず、電子処方箋管理サービスに処方データと調剤データが保管していおり、このデータはマイナ受付により患者から薬剤情報閲覧の同意を得ることで閲覧可能です。また、電子処方箋システムを導入している場合、処方時・調剤時に自動で電子処方箋管理サービス内に保管している処方・調剤情報を元にした重複投与・併用禁忌のチェックが行われます。オンライン資格確認等システムに保存されている薬剤情報はレセプトデータを元にしたものなので、情報が反映されるまでに、10〜40日のタイムラグがありましたが、電子処方箋システムではほぼリアルタイムに処方情報・調剤情報が共有され、それを利活用できることが電子処方箋システムを導入する最大のメリットになります。

 これまで説明した通り、電子処方箋は紙としての処方箋がなくなることによるメリットを多く有していますが、本当の価値はその先にあります。

 電子処方箋システムが導入されると、薬局や医療機関で使用しているシステム(レセコンや電子カルテ等)と電子処方箋管理サービスが接続されます。これによりレセコンや電子カルテ等のシステムから電子処方箋管理サービスに処方・調剤データが送信・蓄積され、医療機関や薬局でその情報を閲覧、利用することが可能となります。


「そうだったのか、電子処方箋」(厚生労働省 医薬・生活衛生局)より

 すでに(原則)全ての薬局・医療で導入されているオンライン資格確認等システムでは診療情報や特定健診情報に加えて薬剤情報を閲覧可能ですが、その情報はあくまでもレセプトデータを蓄積したものであるため、10〜40日の遅れが生じてしまいます。対して電子処方箋システムでは処方箋発行時に処方情報、調剤完了後に調剤情報がほぼリアルタイムで蓄積されるため、レセプト送信によるデータ共有を待たずしてこれらの情報を閲覧・活用することが可能になります。

 また、電子処方箋の運用を開始している医療機関では電子処方箋を発行する時ははもちろんのこと、紙の処方箋を発行する場合もその処方情報を電子処方箋管理サービスに送信します。同様に、電子処方箋の運用を開始している薬局では電子処方箋による調剤を行った時はもちろんのこと、紙の処方箋による調剤を行った場合もその調剤情報を電子処方箋管理サービスに送信します(医療DX推進整備体制加算の算定要件で「紙の処方箋を受け付け、調剤した場合を含めて、調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録する」ことが求められており、疑義解釈資料の送付について(その2)で「調剤後速やかに調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録すること」とされています)。

 つまり、全ての医療機関や薬局が電子処方箋システムを導入することで、電子・紙にかかわらず全ての処方箋(あくまでもオンライン資格確認等システムで取り扱うことのできるものに限定されます)の情報を共有可能となり(閲覧するためにはマイナ受付による同意の取得が必要です)、これこそが電子処方箋の最大のメリットです。

電子処方箋システムによる処方情報・調剤情報の活用

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