零売薬局に関する議論が進み、そのあり方が法律の中で示されることになりそうです。
零売薬局はここ数年で大きく存在感を強めてきました。
医師の処方箋を介さず、顧客の相談を受けた上で薬剤師が使用する薬剤を選択するそのスタイルは、薬剤師の新しい業務スタイルのようにも思えました。
今回は零売薬局に関して現在の制度でどう定められているのか?どのような議論が行われ、どんな方向に変化していこうとしているのかについて徹底解説!したいと思います。
処方箋なしで医療用医薬品(処方箋医薬品は除く)を販売可能な零売薬局はここ数年で大きく存在感を増してきました。零売については法令で明確に規制されておらず、法的強制力を持たない通知にのみ細かなルールが記述されていました。そのルールが十分に守られていないのではないかという指摘を元に、新たな通知の発出が行われましたが、零売薬局を取り巻く環境が大きく変わることはありませんでした。そこで、今年に入ってからは医薬品の販売制度に関する検討会の中で処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売についての議論が行われることになり、その結果、零売に関するルールを法律化する方向になりました。
1、現行制度での零売を整理してみる
零売とは処方箋なしに処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売を行うことです。薬機法の中では処方箋医薬品の販売を原則禁止する記述はありますが、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売を禁止する記述はありません。処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売については通知の中で処方箋に基づき交付されることが原則と記載されています。
零売に関する議論について解説していく前に。
そもそも零売とはどういう意味なんでしょうか?
調べてみると、このようにまとめられていました。
零売(れいばい)とは、医療用医薬品を処方箋なしに、または一般用医薬品を容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいう。分割販売と呼ぶこともある。処方箋医薬品は、零売することはできない。
「零売」(2023年11月5日 (日) 18:15 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』
零売とは処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方箋なしに小売りすることを指します。
つまり、消費者目線で見た場合、処方箋を持たずに訪れても医療用医薬品を購入できる薬局が「零売薬局」ということになります。
処方箋なしで医療用医薬品を販売するなんてことが可能なんでしょうか?
薬機法には処方箋医薬品の販売についての記載があります。
第二節 医薬品の取扱い
(処方箋医薬品の販売)
薬機法
第四十九条 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
この中の「厚生労働大臣の指定する医薬品」というのが処方箋医薬品に該当し、「処方箋なしでは販売することができない」と決められています。
このことは皆さん、ご存知と思います。
じゃあ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は処方箋なしで販売可能なのでしょうか?
結論から言うと、現行の薬機法には特に記載がないので法律的には販売しても問題ないということになります。
ですが、この考えについては通知が公開されています。
2.処方せん医薬品以外の医療用医薬品について
薬局医薬品のうち、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(薬局製造販売医薬品以外の薬局医薬品をいう。以下同じ。)についても、処方箋医薬品と同様に、医療用医薬品として医師、薬剤師等によって使用されることを目的として供給されるものである。
薬局医薬品の取扱いについて(薬食発0318第4号、平成26年3月18日)
このため、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、効能・効果、用法・用量、使用上の注意等が医師、薬剤師などの専門家が判断・理解できる記載となっているなど医療において用いられることを前提としており、1.(2)に掲げる場合を除き、薬局においては、処方箋に基づく薬剤の交付が原則である。
1.(2)とは処方箋医薬品を処方箋なしで販売できるケースを指しており、その内容は大規模災害時等をはじめとする極めて限定したものです。そのような極めて限定された条件下であれば、処方箋医薬品と同様に、処方箋医薬品以外の医療用医薬品も販売可能。
…ということなんですが、この文章には続きがあります。
なお、1.(2)に掲げる場合以外の場合であって、一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で、第3の事項を遵守するほか、販売された処方箋医薬品以外の医療用医薬品と医療機関において処方された薬剤等との相互作用・重複投薬を防止するため、患者の薬歴管理を実施するよう努めなければならない。
薬局医薬品の取扱いについて(薬食発0318第4号、平成26年3月18日)
ここの記載によると、例外となるケースに当てはまらなくても、「一般用医薬品を考慮したが」「やむを得ず販売せざるを得ない場合」は「受診勧奨を行なった上で」「薬歴管理を実施するよう努める」ことで販売可能という意味になります。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法
通知(薬局医薬品の取扱いについて(薬食発0318第4号、平成26年3月18日))の中では具体的な販売方法に関するルールも記載されています。
記載内容を整理してみます。
・使用する本人以外に販売してはいけない(使用者本人への販売)
・品名、数量、販売日時、購入者の連絡先を書面に記載して2年間保存(販売記録の作成)
・調剤室又は備蓄倉庫において保管、調剤室において必要最小限の数量を分割した上で販売(調剤室での保管・分割)
・処方箋医薬品以外の医療用医薬品を含めた全ての医療用医薬品について、一般人を対象とする広告は行ってはならない(広告の禁止)
・消費者が与えられた情報に基づき最終的にその使用を判断する一般用医薬品とは異なることを十分に考慮した服薬指導を行わなければならない(服薬指導の実施)
・販売に当たっては、外箱の写し、添付文書又はその写しの添付を行うなどしなければならない(添付文書の添付等)
簡単にまとめてみると、「一般用医薬品の利用を考慮し、受診勧告を行った上で、それでもやむを得ない場合は、本人が使用する場合に限り、必要最小限の数を販売可能。」その際には添付文書等を添付した上で服薬指導を行い、販売記録を2年間保存する。なお、医療用医薬品について一般人を対象とした広告は行なってはならない。ということになります。
2、零売に関する議論のはじまり
零売薬局が増加する中、処方箋なしで医療用医薬品の販売を行うことに対して、日本眼科医会や薬剤師会等、は危機感を訴えるようになりました。それを踏まえて、厚生労働省は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」という通知を公開しました。その中では零売を行う際の遵守事項に加えて、広告の禁止について記述されています。特に広告の禁止については実際に零売薬局が広告に使用しているキャッチフレーズ等を例をあげて指摘しています。
零売薬局と呼ばれる、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売を中心業務とする(調剤と並行して行う場合もあり)薬局を指します。
薬剤師が患者さんの相談を受け、適切な薬剤を選択、販売する零売薬局のスタイルは、医師の発行する処方箋に基づいて調剤を行う処方箋調剤(保険調剤)や、消費者自らが手に取ることのできる製品としてパッケージングされている一般医薬品の販売と比較して、薬剤師が主体的に行動可能な業態です。
その点で零売薬局に魅力を感じる薬剤師は少なくないと思います。
また、新型コロナウイルス感染症の蔓延による受診控えが増える中、零売という形で医薬品を購入したいという患者ニーズが高まっていました。
その結果、2020年ごろから零売を業務の中心とする薬局が増加していき、「零売薬局」という言葉をよく目にするようになりました。
ですが、零売薬局という業態は法令上規制されていなくても、通知においては制限を受ける形になっており、グレーな部分があります。
そのため、零売薬局が増加する中で、その存在を危惧する意見が生まれてきました。