
令和8年度診療報酬改定に向けた中医協の議論が本格化しています。
中医協ではかなりのボリュームを割いて、調剤報酬や薬局の業務に関する内容が議論されており、令和8年度改定では調剤報酬は大幅な改定を受けることになりそうです。仮に見送りとなる部分が多くなったとしても、議論されている内容は、将来的に反映される可能性が高いものばかりで、将来の薬局を知るためのヒントになる部分が多いと思います。
今回は、中医協での議論を通じて、令和8年度調剤報酬改定に加えて、10年後の薬局の姿について、徹底解説!したいと思います。
中医協における調剤報酬改定に関する内容を見てみると、かなり多岐に渡って議論が行われており、調剤報酬について、大幅な改定が実施される可能性が高まっています。特に調剤基本料においては、これまでの経営的な規模を踏まえた評価から、個々の薬局の機能や所在する地域による評価に移行することが示唆されています。今回の改定で大きな変化が生じるかどうかはわかりませんが、これから先の10年間を踏まえた議論となっており、そこから未来の薬局の姿を垣間見ることができます。
1、小規模乱立?増え続ける門前薬局に対する評価
・ 中医協は「小規模乱立」という強いキーワードを用いて都市部を中心に機能の弱い小規模門前薬局が増えている現状を明確に問題視・ 過去の評価軸である「受付回数」や「経営規模」だけでなく所在地域(都市部/医療資源が乏しい地域)による薬局の違いに注目する形に・ 特に都市部では薬剤師の偏在により「規模は小さいが経営効率が高い薬局」が多数存在し患者のための薬局ビジョンに逆行する構造が浮き彫りになっている・ 令和8年度改定で一気に導入されるとは限らないが今後10年を見据えた調剤基本料の再編は不可避であり、門前薬局の在り方が大きく問われることになると予想される
患者のための薬局ビジョンが公開されて10年が経ちました。
令和7年11月28日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会の中で取り上げられた「調剤について(その2)」(以下、「調剤その2」)では、薬局の現状と医薬分業の課題が示されています。
「患者のための薬局ビジョン」の副題は「「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ」です。医薬分業を患者にとって有意義なものにするため、大きく3つの方向性が示されています。
- ・かかりつけ薬剤師とかかりつけ薬局の推進
- ・対人業務の強化
- ・地域包括ケアへの参画
2015年に「患者のための薬局ビジョン」が公開され、2025年はちょうど10年目にあたります。資料では門前薬局から面薬局への移行を確認するために集中率に注目していますが、門前薬局(集中率の高い薬局)の割合はむしろ増えています。

また、薬局数は増加し続けているけど、薬局の平均常勤換算薬剤師数は増えていないことから、薬局の規模は大きくならず、小規模の薬局が増え続けている状況にあることを示唆しています。

また、都道府県別の薬局数の増減を見てみると、都市部(大阪、東京、埼玉、神奈川、愛知)では薬局数が大きく増加していますが、それ以外では減少している都道府県もあります。

これらの情報と薬局・薬剤師の偏在問題を踏まえて、地方・過疎地域の医療提供体制が脆弱になることや、都市部に薬剤師が集中した結果、十分な機能を有さない小規模な薬局が増えるを指摘しており、「小規模乱立」という刺激的な言葉を用いて表現されています。
薬局の「小規模乱立」の問題として
- ・かかりつけ化に逆行
- ・医薬品配送の非効率化
- ・供給不安を助長
が挙げられています。
過去の調剤報酬改定では、調剤基本料に関して、経営効率の高い大型門前薬局、大手チェーン薬局、敷地内薬局について対応が行われてきましたが、そこに機能の低い小規模薬局が加わる形になっています。
令和6年度改定時点での調剤基本料2の施設基準では、処方箋受付回数1,800回超(集中率95%超)が最も規模の小さい薬局となっていますが、今回の「調剤その2」では受付回数600回超の薬局に注目して資料が作成されており、その根拠のひとつが以下の資料です。

受付回数に関わらず集中率の高い薬局(小規模な門前薬局)について、調剤基本料1の算定を見直し調剤報酬の適正化を行うべきという考え方は、近年、財務省から指摘され続けていることで、つい先日公開された秋の建議(令和8年度予算の編成等に関する建議)でも同様の指摘が行われています。
中医協の資料では、小規模な門前薬局薬局について、薬剤師数や備蓄品目数が少ないため低コストで運営できること、また、後発医薬品調剤体制加算3を算定しやすい傾向にあることを指摘しています。

さらに注目すべきは、調剤基本料の議論の中に、「都市部」という概念が登場したことです。「調剤その2」では、特に都市部の小規模薬局で経営効率が高くなっていることや薬局としての機能を発揮できていない薬局が多く見られることを指摘しています。


これまで、調剤基本料の中で地域という概念が登場するのは調剤基本料の注1(医療資源が乏しい地域に存在する薬局に係る特例)のみでした。今回の資料では、医療資源が乏しい地域に関してはこれまで以上に配慮を行なっていくことを示唆する一方で、特別区や政令指定都市については逆に厳しい対応を行なっていくことが示唆されています。
もちろん、中医協の議論で取り上げられただけで、令和8年度調剤報酬改定で直ちに反映されると決まったわけではありませんが、
- ・小規模乱立の是正(受付回数に関わらず集中率の高い薬局)
- ・都市部に所在する薬局(薬局の偏在問題)
について、これから先の10年間で本格的に見直しが行われていくことが予想されます。
地域に注目した考え方は、この後で紹介する地域支援体制加算や在宅薬学総合体制加算に関する議論でも登場します。
2、敷地内薬局と医療モールに関する議論
・ 特別調剤基本料Aの「ただし書き」は令和8年度改定で削除され、従来の「抜け道的な運用」は制度的に封じられる見通し・ 医療モールについても類似形態としてより厳しい評価を受ける可能性が示唆されている・ 集中率抑制のために形式的に施設外来を利用するなどの「調剤基本料の抜け道」も問題視されており、令和8年度改定では厳格な運用へと移行する可能性が高い
