
令和7年8月に開催された、令和7年度 第2回 薬事審議会(要指導・一般用医薬品部会)において、緊急避妊薬の要指導医薬品としての製造販売承認が可能であると判断され、その後、8月にあすか製薬と富士製薬工業がスイッチOTC医薬品の承認を取得しました。
eラーニング等の体制整備も進み、薬局での販売まであとわずかとなった緊急避妊薬ですが、これまでどのような形で議論が重ねられてきて、販売を行う薬局や薬剤師には何が求められるのか?
今回は緊急避妊薬の販売に向けて必要な知識について、これからの薬局の姿と重ねながら徹底解説!したいと思います。
薬局で緊急避妊薬の販売が正式に始まります。緊急避妊薬は十分な効果を発揮するために時間依存性のある薬剤であるにも関わらず、処方を受けるためには医療機関を受診する必要があり、必要な人に十分届きにくい現状がありました。今回の記事では、緊急避妊薬の承認・オンライン診療・試験販売を経た制度の流れ、レボノルゲストレルの作用機序と低用量ピルとの違い、販売・調剤に必要な研修や薬局に求められる体制、実際の確認事項やプライバシー対応など、薬剤師が現場で実践するための要点をまとめます。
1、薬局での緊急避妊薬販売が可能になった背景と経緯
緊急避妊薬は時間依存性が高い一方で、医療機関を受診しないと使用することができないため、必要とするすべての方が利用できる環境にはありませんでした。そのため、アクセス改善に向けた制度整備の議論が重ねられてきました。医療用医薬品としての承認、オンライン診療での処方・調剤、薬局での試験販売を経て、薬局販売が正式に認められるまでの経緯を整理します。
緊急避妊薬(レボノルゲストレル錠1.5mg、いわゆるアフターピル)は、服用により妊娠の可能性を低くする薬です。その避妊効果は時間依存性が高く、時間経過とともに効果は徐々に低下するため、無防備性交(避妊していない性交)後72時間以内に服用することが求められています。
ですが、医療機関の受付時間や地理的条件、心理的ハードルにより、必要時にアクセスできない可能性があります。厚生労働省の令和6年度 衛生行政報告では人工妊娠中絶件数が約12.8万件とされており、適切なアクセスを確保することができれば、緊急避妊薬の利用機会が増える可能性があります。
この背景を受け、日本では医師の処方箋なしで薬局で購入できる体制が段階的に検討されてきました。
まずは医療用医薬品としてのこれまでの経緯を振り返ってみます。
2011年に日本で初めての緊急避妊薬としてノルレボ錠0.75mgが承認(2月)、発売(5月)され、その後、2015年には1.5mg製剤(ノルレボ錠1.5mg)が承認され、2016年4月から販売開始されました(その後0.75mg製剤は発売中止)。続いて2019年、ジェネリック医薬品であるレボノルゲストレル錠1.5mg「F」が承認(2月)、発売(3月)されています。
2019年7月の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改訂では、産婦人科医または厚生労働省が指定する研修を受講した医師であれば、緊急避妊に関して初診からオンライン診療を行うことが可能となり、その調剤は研修を修了した薬剤師が対応することになりました。2024年度(令和6年度)診療報酬改定では、地域支援体制加算の施設基準に緊急避妊薬の備蓄・相談の適切な応需・調剤体制の整備が追加され、オンライン診療に伴う調剤等に対応できるよう、所定研修の受講が望ましいとされました。
これにより、実際の調剤経験の有無に関わらず、研修を受講する薬剤師や備蓄する薬局が増えています。
一方、市販化に向けた動きは2017年ごろから始まりました。
厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」の中で緊急避妊薬が取り上げられましたが、パブリックコメントでは賛成が多数を占めたにもかかわらず、乱用・悪用への懸念や提供体制の課題が挙がり、OTC化は見送りとなりました。
その後、大きく動き出したのは2020年で、12月26日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画に「処方箋なしでの緊急避妊薬の利用を検討する」ことが明記され、議論が再開。2023年11月からは厚生労働省のモデル的調査研究として一部薬局での試験販売が実施され、提供プロトコル、面談・説明、連携手順などの検証が進みました。
こうした段階的な検討と試行を経て、2025年10月に厚生労働省は緊急避妊薬の市販化を正式に承認しました。2017年に議論が開始されてから8年を要しましたが、薬局は新たな役割を担うことになりました。
2、緊急避妊薬の作用機序〜低用量ピルとの違い
レボノルゲストレルは排卵遅延を主作用とし、内膜の増殖抑制や頚管粘液の変化によって受精を抑えます。作用機序をわかりやすく解説するとともに、排卵抑制で妊娠を予防する低用量ピルとの違いを含めて解説します。
