コラム記事

漢方についている、名前のパターンのおはなし

前回に引き続き、漢方薬の名前に注目して書いていこうと思います。
お子さんがいらっしゃる方は、「こんな子に育ってほしい」「こんな人生を歩んでほしい」などといった願いや想い込めながら、お名前を考えられた方も多いと思います。
僕は漢方薬の名付け親になったことはありませんが、漢方薬を考えた昔の人も「この子(漢方薬)の名前、どんな名前にしようかしらん?」ときっと悩んだはずです。

今回は名付け親の気持ちを妄想しながら、漢方薬の名前を見ていただけたらと思います。

漢方薬の名前のパターンとは?

漢方薬の名前の付き方はパターンがあります。
ザックリ分けると次の4つのパターンとなっていて、中には複合技のような名前の付き方になっているものもあります。

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1:漢方薬を構成する生薬の名前が使われているパターン
2:漢方薬の効き方が名前になっているパターン
3:飲んでもらいたい方の状態が名前になっているパターン
4:古代中国の思想が名前になっているパターン
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では、それぞれのパターンに分けて、聞き馴染みのある漢方薬を例に挙げながら書いていこうと思います。
※漢方薬の名前についている番号は、ツムラの医療用エキス顆粒に当てられている番号となります。

1:漢方薬を構成する生薬の名前が使われているパターン

「1.葛根湯」

知らない人はいないくらい有名な漢方薬です。
七種類の生薬で構成されていて、その中でも葛根が主薬とされているため、葛根湯という名前になっているそうです。 葛根湯は桂枝湯がベースになっている漢方薬です。
「桂枝湯+葛根・麻黄=葛根湯」となります。
漢方薬の処方構成を見ていく時の視点の一つが「君臣佐使」の考え方です。 これは漢方薬をひとつの会社だとして、構成生薬に役職を付けて整理するような視点です。 簡単に説明すると次のようになります。

♦君薬:主な症状に作用を果たす薬物で不可欠なもの。
♦臣薬:主な症状を治すために君薬を助けたり、その主な症状以外の副症状に作用する。
♦佐薬:君・臣薬の作用を強めたり、毒性などを弱めたりする。
♦使薬:効果を目的の所へ導いたり、調和させたりする。

この視点でそれぞれの漢方薬をみると次のようになります。

桂枝湯
君薬:桂枝(桂皮)
臣薬:芍薬
佐薬:甘草
使薬:生姜・大棗
 
葛根湯
君薬:葛根
臣薬:麻黄
佐薬:桂枝(桂皮)・芍薬
使薬:生姜・大棗・甘草

※高山宏世「腹証図解 漢方常用処方解説」,日本漢方振興会漢方三考塾 より

桂枝湯の主薬であった桂枝が、葛根湯になるとサポート役のような感じになっているではないですか。
まるで麻黄が桂枝を引き摺り下ろして、葛根を担ぎ上げたような図ですね。
また次のような記事もありましたので紹介しておきます。

桂枝・芍薬・甘草・大棗・生薑の5味で桂枝湯。これに葛根が加わった6味は桂枝加葛根湯。さらに麻黄も加わって7味となると、もはや桂枝加葛根麻黄湯とはいわない。新たに葛根湯の名が与えられる。それほど桂枝湯とは一変し、葛根が主薬の座を桂枝から奪ってしまっている、というべきだろう。
※真柳誠「漢方一話・処方名のいわれ1-葛根湯」『漢方診療』13巻2号18頁、1994年2月 より

「119.苓甘姜味辛夏仁湯」

構成生薬は、茯苓・甘草・乾姜・五味子・細辛・半夏・杏仁の七種類で、それぞれの一文字を集めて方剤の名前が出来上がっています。苓甘姜味辛夏仁湯は後から出てくる小青竜湯と関連付けて覚えておくと役立つかもしれません。
構成生薬は「小青竜湯−麻黄・芍薬・桂皮+茯苓・杏仁=苓甘姜味辛夏仁湯」となります。
小青竜湯の麻黄が体に合わない方に使われたりします。

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