後発品を中心とした供給不安の原因を徹底解説!〜有識者検討会の報告書を通じて

 2023年6月9日、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」はこれまでの検討会での議論を整理した報告書を公開しました。2022年9月22日に第一回が開催されて以降、合計13回の会議(2022年8月31日の第1回「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」を含めると合計14回)が行われてきましたが、2023年6月6日をもってひとまず終了となりました。現在は報告書で整理された内容について、具体的な政策等に落とし込むべく、議論が進められているところです。


 実際にみなさんが現場で直面している問題だけに注目度が高い問題ですが、じゃあ、その原因について多くの方が理解しているかというと、必ずしもそうではないと思います。薬剤師としての仕事に欠かすことができない医薬品に関する様々な制度が変化しようとしているこのタイミングだからこそ、これから行われる議論について注目していくべきではないかと思います。そのためには、現在起きている供給不安の原因についてしっかり理解しておくことが重要です。


 そこで、今回は「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」ではまとめられた内容のうち、医薬品の供給不安にフォーカスを当て、その原因について徹底解説!したいと思います。(検討会では後発医薬品を中心とした医薬品の供給不安だけでなく、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスまでを含めた広い範囲について議論が行われました)

トレンドを早読み!

2021年から本格化した医療用医薬品の供給不安は今も続いており、解消される気配はありません。製薬企業の不祥事が原因と言われていますが、それはあくまでも問題を表面化させただけに過ぎず、供給不安や不祥事の影では多くの要因が複雑に絡みあっています。
一つは薬価制度に関する問題です。現在の制度や医療機関・薬局との取引状況では医薬品の薬価は毎年下がる一方で、企業の収益性は低下してしまいます。次に後発品の産業構造上の課題として少量多品目生産となっていることが挙げられます。品目数が増えることで製造・管理が複雑で非効率なものになってしまっています。加えてサプライチェーン上の課題として、原薬・原材料を海外に依存している部分が多く、為替変動や国際情勢の影響を受け、製造コストを増加させています。
これらの問題が合わさることで、後発品の製造管理上の負担は増しており、それらが積み重なった結果が不祥事という形で現れてしまったという背景があります。また、不祥事を起こすことがなくても十分な製造余力を維持することが難しくなっており、一つのメーカーの製品の供給が滞るとそれが他のメーカーの供給にも影響を与えてしまいます。その状況下で新型コロナウイルス感染症による医薬品の需要増加も起きており、供給不安に拍車をかけている状況です。
このような原因を理解した上で、薬剤師としてこの問題について考えていくことが大切です。

1、供給不安は製薬企業の不祥事によるものなのか?

この章のPOINT

2020年12月に発覚した睡眠薬混入事件により小林化工が業務停止処分、その一か月後に日医工へ業務停止命令が下されました。これらの事件をきっかけに医薬品製造販売業者等の法令順守体制の見直しが行われ、薬機法違反が発覚した会社が業務停止処分や業務改善命を受けました。供給不安定の一因ではありますが、不祥事が起きた原因についても理解し解決を目指す必要があります。

 2021年から本格化した医療用医薬品の供給不安は現在も継続しています。供給不安がはじまったきっかけは?と言われると、多くの方が2020年12月に発覚した小林化工の睡眠薬混入事件(イトラコナゾールにリルマザホンが混入)を思い浮かべるのではないでしょうか?
死亡者まで出してしまった小林化工の事件は衝撃的でした。多くの品目を抱えていた小林化工の製品の供給がストップしてしまっただけでなく、小林化工が製造していた他社製品も次々と供給が止まってしまいました。この時を境に「製造委託」という言葉をよく耳にするようになったのではないかと思います

 小林化工の業務停止処分から一ヶ月後、日医工に対しても業務停止命令が下されました。実は日医工については、業務停止処分が下される一年くらい前から自主回収や出荷停止を繰り返している状態でした。問題発覚当時、国内後発医薬品メーカー最大手だった日医工の製品が滞ってしまうことで医療現場は大きな影響を受けました。その後、日医工の体制は一新され、承認整理等が行われていますが、いまだに多くの製品の供給が不安定になっています。

 これらの事件をきっかけに、医薬品製造販売業者等の法令順守体制の見直しが行われ、業務停止命令や行政処分の基準見直し、都道府県による査察の強化、業界団体による自主点検が開始されました。その結果、次々と薬機法違反が発覚し、いくつもの会社が業務停止処分や業務改善命令を受けることになってしまいました。

厚生労働省 - 医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 報告書 参考資料

 報告書では、「一連の行政処分については、各企業における誤ったガバナンスや不十分な教育、過度な出荷優先の姿勢、バランスを欠いた人員配置などが、製造管理及び品質管理上の管理不備やコンプライアンス違反につながったことが直接的な原因と指摘されている」とまとめられています。各企業が続けて処分を受けたことは業界に大きなショックを与えるとともに、業務停止や製造方法・品質管理の見直しによる製造・出荷量の低下は医薬品の供給全体に大きな影響を与えました。

 ですが、各社の業務停止処分はすでに終わっており、日医工や小林化工の処分からも2年以上が経過していますが、いまだに供給不安定は継続しています。後発医薬品メーカーの不祥事はたしかに、現在も続く供給不安定の発端となりましたが、供給不安定の原因の一因に過ぎません。供給不安は多くの要因が相互に関係する複雑な問題であり、各企業の不祥事もその結果の一つと言えます。

 医薬品供給不安が話題になる際、今でもこれら後発医薬品メーカーの不祥事が原因と言われることがありますが、供給不安の解決を目指すためには、なぜそのような事態になったのか、一つ一つの要因とその相互作用について理解する必要があります。

2、薬価制度上の課題

この章のPOINT

後発品はシェア獲得のための値引きや卸取引の際の取引額調節に利用されるケースがあります。価格競争の結果市場実勢価格が下がり薬価改定での薬価の引き下げにつながるのですが、薬価が下がれば企業の収益性は低下することとなります。


 現行の薬価制度では、市場実勢価格(医療機関・薬局への販売価格の加重平均値)を元に薬価改定を行う(市場実勢価格加重平均値調整幅方式)ことが基本となっています。

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